子どもの「やめてほしい行動」が止まらない。窃盗、嘘をつく、約束やぶりなど、脳科学が明かす本当の理由と、親にできること
By: えみ
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Posted: 2026/08/19
こんにちは、アルファ・アドバイザーズCOOの坂下絵美です。
前回、子どものことで「誰にも言えない悩み」を抱える親御さんに向けて記事を書いたところ、多くの反響をいただきました。
今回はその中でも、特に口に出しづらいテーマに、あえて正面から踏み込みます。
お子さんの「リスクのある行動」に悩んでいませんか。
家のお金がなくなっている。お店のものを持ってきてしまった。嘘を重ねる。危険なことを繰り返す。やめる約束を何度しても、また起きる。
これは、学校の先生にもママ友にも、絶対に相談できない悩みです。「うちの子は泥棒なのか」「性格が歪んでしまったのか」「育て方を間違えたのか」。そう自分を責めながら、たった一人で抱えている親御さんが、実はたくさんいらっしゃいます。
今日は、慰めではなく「分析」をお届けします。なぜなら、この種の行動は、仕組みがわかった瞬間に、親の対応が根本から変わるからです。そして対応が変わると、子どもも変わります。
まず結論から言います。
この行動の多くは「性格の問題」でも「モラルの欠如」でもなく、「脳の回路が学習してしまったパターン」です。そして学習されたものは、学習し直すことができます。
ひとつずつ、解きほぐしていきましょう。
その行動は「欲しいから」ではない
まず、多くの親御さんが誤解している点からです。
子どもがものやお金を取るとき、親は「欲しいものがあるなら言えばいいのに」と考えます。お小遣いを増やしたり、ものを買い与えたりして解決しようとする。でも、止まらない。当然です。この種の行動の目的は、多くの場合「もの」ではないからです。
心理学の研究では、こうした行動には共通のサイクルがあることがわかっています。行動の前に緊張や不快な感情が高まり、行動の瞬間にふっと解放される。そして直後に、強い罪悪感と自己嫌悪が来る。
つまりこれは「獲得の行動」ではなく「感情処理の行動」なのです。不安、空虚感、プレッシャー、自分でも名前のつけられないモヤモヤ。それを言葉で処理する回路がまだ育っていないとき、子どもは「行動」で処理するしかありません。実際、この構造は過食などの摂食障害とほとんど同じで、両者が同じ人に重なって現れやすいことは、臨床研究で古くから知られています。
ここで大事なことがひとつ。行動のあとに罪悪感があるということは、お子さんの良心は正常に機能しているということです。「わかっているのにやってしまう」のは、道徳の故障ではなく、次にお話しする「ブレーキの発達」の問題です。
脳の中で何が起きているのか
脳科学の視点から、このサイクルを分解します。ポイントは三つです。
◯一つ目は、報酬系の学習です。脳の奥にはドパミンという物質で動く「報酬回路」があり、快や解放をもたらした行動を強力に記憶します。厄介なのは、この回路が「確実な報酬」より「リスクを伴うスリル」に強く反応する性質を持つことです。見つかるかもしれない緊張と、やり遂げた瞬間の解放。この落差が大きいほど、回路への刻み込みは深くなります。ギャンブルにハマる大人の脳で起きていることと、原理は同じです。本人が「やめたい」と本気で思っていても、回路が先に反応してしまう。これが「約束しても繰り返す」の正体です。
◯二つ目は、ブレーキの工事中問題です。衝動が立ち上がったとき、「いや、やめておこう」と上から抑えるのは前頭前野という脳の司令塔です。そしてこの部位は、脳の中で最も発達が遅く、完成は20代半ば。思春期の脳は、アクセル(報酬系)が先に強力になり、ブレーキ(前頭前野)が追いついていない、構造的にアンバランスな時期なのです。「なんでこんなことをしたのか、自分でもわからない」という子どもの言葉は、言い逃れではなく、かなり正確な自己報告だと私は思っています。
◯三つ目は、ストレス系の過敏化です。慢性的なストレスにさらされた脳は、不安や脅威を感知する扁桃体が過敏になり、前頭前野のブレーキがさらに効きにくくなることがわかっています。受験、人間関係、家庭の緊張、本人も自覚していないプレッシャー。ストレスが高い時期に行動が増えるのは、偶然ではありません。
まとめると、こうなります。処理しきれない不快感情が頻繁に立ち上がり(ストレス系)、それを行動による解放で処理することを覚え(報酬系の学習)、止めるためのブレーキはまだ工事中(前頭前野)。この三つが重なった場所に、あの行動は生まれています。
「愛情不足」という自己診断について
ここまで読んで、「では原因は家庭なのか。私の愛情が足りなかったのか」と感じた方へ。
たしかに研究上、幼少期の環境やストレスが、いま述べた脳の発達に影響することは知られています。でも、ここで二つ、正確に伝えたいことがあります。
第一に、これは決定論ではありません。同じ環境でも行動が出る子と出ない子がいて、生まれ持った感受性、偶然の初期体験、学校での出来事など、多くの要因の掛け算で決まります。「親の愛情量」という単一の原因に還元できるものではないのです。
第二に、そしてこちらが本質ですが、原因探しは過去にしかできませんが、脳の再学習は今からできます。神経可塑性——脳が経験によって配線を変え続ける性質——は生涯保たれます。実際、この種の行動は、行動のパターンを変える心理療法や、衝動の仕組みに働きかける治療の研究が進んでいて、「治せるもの」として扱われる時代になっています。意思の力で殴り合う相手ではなく、回路として理解してほどいていく対象なのです。
だから問いを変えましょう。「なぜこうなったのか」から、「この行動は、いま何の役割を果たしているのか」へ。
親にできる五つのこと
分析を踏まえて、家庭での関わりを具体的にお伝えします。
一つ目。行動と人格を切り分けて言葉にすることです。「あなたは泥棒だ」「嘘つきだ」という人格への言葉は、恥の感覚を深めます。そして恥は、この行動の最大の燃料です。恥が深まるほど隠すようになり、隠すほど行動は密室で強化されます。「行動は間違っている。でもあなたの価値は変わらない。一緒に理由を探したい」。この切り分けが、回路をほどく入り口です。
二つ目。問い詰めるより、直前を観察することです。「なぜやったの」と聞いても、本人にも答えられません。それより、行動が起きる前に何があったかを観察してください。テスト前、友人関係の変化、家庭の空気。行動はランダムに見えて、たいてい引き金があります。引き金がわかれば、行動が出る前に手当てができます。
三つ目。感情に名前をつける練習を、日常の中で一緒にすることです。行動で処理していた感情を、言葉で処理できるようになることが、根本の再学習です。深刻な面談の場ではなく、食卓や車の中で、親自身が「今日こういうことがあってモヤモヤした」と自分の感情を言葉にして見せる。子どもの感情の語彙は、親の感情の語彙を借りて育ちます。
四つ目。親自身の状態を整えることです。子どもの感情のブレーキは、まず隣にいる大人の落ち着きを借りて育ちます(協働調整といいます)。親が不安と監視でぴりぴりしている家は、皮肉なことに、子どものストレス系をさらに過敏にします。あなたが眠れて、話せる相手がいて、落ち着いていること。それ自体が介入です。
五つ目。抱え込まずに、専門家につながることです。行動が反復していて生活に影響が出ている場合は、思春期を診られる専門機関に相談する価値があります。それは「大ごとにする」ことではなく、脳の仕組みの問題を仕組みの専門家に見てもらうという、きわめて合理的な選択です。恥ずかしいことでは、まったくありません。
こ
れは家族の「転機」になりうる
最後に、前回の記事と同じことを、今回は分析の裏付けとともに言わせてください。
この行動は、お子さんの内側で処理しきれない何かがある、というサインです。つまり、家族がそれに気づくための、痛みを伴う通知でもあります。ここで仕組みを理解し、関わり方を変えられた家族は、行動が収まるだけでなく、それまでより深いところでつながり直しています。私はそういうご家族を、たくさん見てきました。
誰にも言えない悩みほど、一人で抱えてはいけない悩みです。
メンタルラボでは、脳科学にもとづいた個別コーチングで、お子さんの行動の仕組みの理解から、ご家庭での関わりの設計、親御さん自身のメンタルの立て直しまでを一緒に進めています。必要な場合は医療との併走もお勧めしながら、ご家族の「今から」を設計します。まずは、誰にも言えなかったその話を、私たちに聞かせてください。
坂下絵美女子学院→東京大学薬学部→同大学院薬学系研究科 薬科学専攻 修士課程修了(薬品作用学教室・海馬の神経回路研究、査読論文共著)→コロンビア大学教育大学院にて臨床心理学を研究。アルファ・アドバイザーズCOO(2020年〜)。アルファは18年間で累計8万名以上をサポート。メンタルラボでは、脳科学にもとづくメンタルコーチングで親子の変化を支援しています。
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